生物の遺伝的進化と人類の文化進化のアナロジー

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 生物の遺伝的進化と、人類の文化の進化のアナロジーは多くの人に取り上げれている。コンラート・ローレンツは文化の発展は系統発生における種の進化とよく似ている。そして言葉により可能となった「獲得形質の遺伝」が文化の歴史的な発達を早める要因となっていることを指摘する[コンラート ローレンツ、「文明化した人間の八つの大罪」日高敏隆、大羽更明訳、新施策社、1973、77頁に以下の記述がある。]
 人聞の文化の発達は、系統発生における種の進化とよく似ている。あらゆる文化の発達の土台をなしている累積的伝統は、本質的に新しい、いかなる動物にもみられない機能にもとづいている。とりわけそれは抽象思考と言語の使用にもとづいている。人間は、自由な記号をつくり出す能カによって抽象的に考え、言葉を用いることをつうじて、個体が獲得した知識をひろめ伝える、それまてみられなかった可能性を開かれたのである。その結果生じたこの「獲得形質の遺伝」は、一方では、文化の歴史的な発達が種の系統発生より数層倍もはやく進行する原因になっている。
この指摘は、「文明化した人間の八っつの大罪」の第七章、伝統の破壊で行われている。ローレンツはこの後、伝統的文化は自然淘汰を勝ち抜いてきたものであることを述べ。このようなものをいとも簡単に破壊することを大罪の一つとして挙げ、近代の人類に警告を発している。
 利己的遺伝子で有名なリチャード・ドーキンスは、「ミーム」という自己複製子を発明する。利己的遺伝子の主張は、「あらゆる種は、その遺伝子たちの定める枠に閉じこめられ、それらの遺伝子たちが生き残る確率を最大限にするような仕方で成長し行動することを強いられる。[フリーマン ダイソン、「多様化世界」、鎮目恭夫訳、みすず書房]」ということである。これと同じように文化も仮想的な自己複製子である「ミーム」により支配されるというのである[リチャード ドーキンス,「利己的な遺伝子」、日高敏隆他訳、紀伊國屋書店の306頁に以下の記述がある。]
新登場のスープは、人間の文化というスープである。新登場の自己複製子にも名前が必要だ。文化伝達の単位、あるいは模倣の単位という概念を伝える名詞である。模倣に相当するギリシヤ語の語根をとれば「mimeme」ということになるが、私のほしいのは、「ジーン(遺伝子)」という言葉と発音の似ている単音節の単語だ。そこで、上記のギリシヤ語の語根を「ミーム(meme)」と縮めてしまうことにする。・・(中略)・・楽曲や、思想、標語、衣服の様式、壷の作り方、あるいはアーチ建造法などはいずれもミームの例である。遺伝子が遺伝子プール内で繁殖するに際して、精子や卵子を担体として体から体へと飛びまわるのと同様に、ミームがミームプール内で繁殖する際には、広い意昧で模倣と呼びうる過程を媒介として、脳から脳へと渡り歩くのである。
たしかに、そういわれると生物の遺伝的進化と、人類の文化の進化のアナロジーを議論するには、打ってつけの概念ではないか。「獲得形質の遺伝」というとなにか良いことばかりのような印象があるが、文化という枠の中で歴史を刻んできた人類は、目に見えぬなにかに支配されているという見方もできる。その主が「ミーム」なのである。
 また、ハーバート・A・サイモンは、「人工物を創造する過程にはジェネレータとテストは必要である。進化過程に例えれば、突然変異がジェネレータであり、自然淘汰がテストである」と言う[ハーバート・A サイモン、「システムの科学」、稲葉元吉、吉原秀樹訳、パーソナルメディアの70頁に以下の記述がある。]
人工物を創造する一つの方法は、創造者の頭脳からそれを生じさせることである。もう一つの方法は、ある種の淘汰作用に応じそれを進化させることである。進化に関する最も簡単な図式は、二つの過程に依存するものである、すなわちジェネレータとテストである。ジェネレータの任務が、多様性すなおち以前には存在しなかった新しい種を生みだすことであるのに対し、テストの任務は新しく生みだされた種を選別し、環境に十分適した種のみが生き残るようにすることである。現代の生物学的進化論でいえば、遺伝学上の突然変異がジェネレータであり、自然淘汰がテストである。
 進化に関しての勝負の時間軸はとてつもなく永い。どんなに文化が発展したとしても、人類が地球・宇宙という大きなシステムの一員であることには変わりがないことを忘れてはいけないだろう。

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