虫と人間(2)

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最近、昆虫採集者の肩身が狭い。網をもって歩いていると「自然破壊の張本人」みたいにじろじろ見られるし、採集禁止の場所がやたらと増えた。実は昆虫採集で捕獲される昆虫数は、宅地造成・道路拡張などの人工環境拡大事業で失われる昆虫数に比べ全く問題にならないくらい少ない。虫屋(昆虫愛好家)は悔し紛れに叫ぶ「鳥が食べる昆虫の数は1年で十万だそうだ、鳥一匹殺した方が、遙かに昆虫保護になる。」と。このように、立場によりものの見え方は異なる。どちらが正しいというわけではない。このような見方で昆虫と植物そして人間との関わりを見てみよう。

 植物が花をつけ、蜜や花粉を報酬として提供する代わりに、花粉をめしべに運んでもらう主たる運搬者(送粉者)として昆虫を利用していることはよく知られている。双方が利益をうる共生の典型例と一般的に捉えられている。

 さて問題は昆虫側にある。送粉者として活動するのは成虫である。昆虫は卵・幼虫・蛹という過程を経て成虫になる。成虫が子孫を残す生殖作業が主な仕事だとすれば、幼虫は食物を摂取して成長するのが役目だといえる。つまり、幼虫には大量の食料が必要なのだ。その食料の主な対象となるのが植物である。

 地球上に出現から多くの昆虫が出現してからしばらく(3億年前~1億5千年前)の地球上は、裸子植物(針葉樹など)の時代であった。この時代昆虫の幼虫は、菌類に適応、針葉樹にも適用したものもあった。そして、花を持つ顕花植物全盛時代とともに昆虫も繁栄を遂げたのである。しかし、昆虫の植物との関係は送粉者としての立場とは異なる。植物側には直接的な利益が存在しない。このため、植物側も物理的・化学的な忌避物質で対抗する。昆虫たちはその防壁を様々な方法でくぐり抜ける。これに植物も新たな策で対抗する。現存する昆虫たちも全ての植物に適応することは出来ず、種によって食料とする植物(食草・寄主植物)は決まっている。これが、昆虫達が植物との1億年以上のやりとりの中で獲得したものなのだ。

 ここで人間の登場である。テーマは、害虫である。昆虫の多くは食植性、つまり植物を食べる。その植物が人間にとって食糧や木材として利用価値の高いものであれば、その昆虫は「害虫」になる。広辞苑によれば、害虫とは「人畜に直接害を与え、または、作物などを害することによって人間生活に害や不快感を与える小動物の総称」とある。さて、ここでは、農業害虫の中心に、害虫とは何か少し考えてみよう。

 はじめに確認しなければいけないことは、昆虫たちにとって最大・最悪な害虫?は間違いなく人類であるということである。昆虫だけではない、地球上に生存しているほとんど全ての生物にとっても事情は同じだろう。

 さて、畑という人工の場は、昆虫にとってどんな生活環境なのだろうか? 畑は、極めて限られた種類の植物が広範囲にわたって棲息する環境である。つまり、人工環境の特徴は、「多様性の欠如」にある。農業でも、林業でも収穫しやすい植物を大量に栽培する。それが植林であり、畑である。その植物が、昆虫が1億年以上の進化の過程で獲得した適応可能な種であるかどうかで結果は大きく異なる。つまり、畑はそれを食べる昆虫にとっては食料の倉庫であり、食べない昆虫にとっては砂漠と同じだということになる。自然界ではこのように異常に大量な食料に恵まれる環境はない。このような人工環境で、特定種の昆虫が大発生することは必然といえる。

 ただし、畑は(収穫によって)ある日いきなり食料がゼロになる環境でもある。これも自然界では考えられないことである。昆虫にはこのような人工的な環境に適合しているものがおり、その多くが「害虫」である。昆虫達は、このような環境にも適応しなければならないのである。逆に言えば、そのような適応性を持った昆虫だけが生き残ったのだろう。

 自然状態で畑のような環境が発生したとしよう。いわゆる害虫と呼ばれる昆虫は大発生をして、畑の植物を食べ尽くしてしまう。その結果、その環境は破壊され、その昆虫の絶滅してしまう。そして、多様な植物が発生するような環境に変わっていくかもしれない。害虫とはそのような役割をもった昆虫なのだ。

 人間はこれらの害虫を、「農薬」という武器を使って駆除してきた。しかし、時間がたつと農薬に適応するものが現れたり、農薬により天敵が駆除され、新たな「害虫」が出現したりすることがわかってきた。まさに、「いたちごっこ」である。これらのことから感じるのは昆虫の多様性の強みと適応性の高さである。自然という大きなシステムの中での大先輩「昆虫」には、新参の人類にはうかがいしれないような「生き残るための戦略」が隠されているのだろう。



 


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