ハイイロチョッキリ(3)

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人類文化の進化


 人類とて生物の一種であり、進化の枠組みは変わらない、といってしまっては話が進まない。
 人間は自分たちが最も進化した生物と思っているだろうが、多様性では昆虫にとてもかなわない。生物としての人間は1種類である。多様性を進化度の尺度とすれば、昆虫たちが最も進化した生物だとも考えられる。しかし、人間だって確かに進化の頂点にいる生物に見える。この疑問を養老孟司流に解答すれば、昆虫はハードウェア(形)を進化(=多様化)させ、人間はソフトウェア(脳)を進化(=多様化)させたということになる。昆虫はハードウェアを進化させ、とてつもない種類の形態を生み出した。一方、人類はソウトウェアを進化させ、さまざまな文化を生み出した。勝負はお相子である。
 さて、人類はどのように進化(=多様化)したのであろうか。昆虫が地球上に出現したのは、3億~4億年前石炭紀のことである。一方、人類の最古の祖先といわれるルーシが出現したのが、わずか300万年前である。昆虫と人類が進化の頂点にいるとすれば、人類の進化の速度は脅威的に速い。この速さの原因はどこにあるのか。単にソフトウェアとハードウェアの違いと片づける訳にはいかない。進化論のなかで私にとって最も興味深いのは「獲得形質」の継承の是非である。獲得形質というのは、生物がその生存中に得た形質、毒のある食物を一度経験すると二度と食べないとか、鍛錬により100メートルを9秒台で走ることができるようになる、というようなことである。
 現在の生物学ではこの獲得形質の継承は、否定されている。さて、獲得形質の継承ができない、もしもできたとしてもその効果が極めて少ないとすれば、あとは確率に頼る他はない。突然変異と自然淘汰に代表される進化過程のなかで、昆虫たちは、気の遠くなるような時間を使って、種の多様性を実現したのだ。
 さて人間は、いかにしてソフトウェアの多様性を手に入れたか。実は人間は獲得形質の継承に成功したのである。人間は言葉を手にし、高度なコミュニケーション手段を確立した。また、文字の発明により、極めて効率よく時間的・地域的に情報を伝達することができるようになった。ここでの主題からいえば、未来に知識を残す手段を手に入れたことに大きな意味がある。人類は子孫に知識を継承する手段を獲得したのである。
 これは獲得形質の継承の効率の飛躍的向上と捉えられよう。この獲得形質の継承システムをさらに効率よく、また人類特有の制度として実現するやりかたを、「教育」といい、その場所を「学校」と呼ぶ。人間社会では、学校での教育という形で獲得形質の継承が大量に生み出されている。突然変異と自然淘汰という進化過程に比べ、獲得形質の継承による進化のほうがはるかに効率的なことは明白である。たとえば、世代ごとに1%知識が増加したとすると、10世代1.1倍、100世代で2.7倍、1000世代では約2100倍になる。時代とともに、急速に知識が集積される様子がよくわかる。人類が出現してから300万年、文字の出現からわずか5000年、人類の文化の急激な進化は言語による獲得形質の継承がいかに有効であったかをよく物語っている。
 生物の遺伝的進化と、人類の文化の進化のアナロジーは多くの人に取り上げられている。コンラート・ローレンツは文化の発展は系統発生における種の進化とよく似ている。そして言葉により可能となった「獲得形質の遺伝」が、文化の歴史的な発達を早める要因となっていることを指摘する。利己的遺伝子で有名なリチャード・ドーキンスは、「ミーム」という自己複製子を発明する。利己的遺伝子の主張は、「あらゆる種は、その遺伝子たちの定める枠に閉じこめられ、それらの遺伝子たちが生き残る確率を最大限にするような仕方で成長し行動することを強いられる。」ということである。これと同じように、文化も仮想的な自己複製子である「ミーム」により支配されるというのである。確かに、そういわれると、生物の遺伝的進化と、人類の文化の進化のアナロジーを議論するには、うってつけの概念ではないか。「獲得形質の遺伝」というと、なにか良いことばかりのような印象があるが、文化という枠の中で歴史を刻んできた人類は、目に見えないなにかに支配されているという見方もできる。その主が「ミーム」なのである。

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