さて、聖地に付加された情報が重要なら、それを移動すれば「聖地が移動」することも夢ではありません。現にチューリンガには携帯可能な聖地としての機能があります。ところが、中沢新一も「聖地は移動しない」といいます。「聖地という場所は、この世の中にある空間でありながらこの世の空間でないような、一種の特異点みたいなものです。だから、聖地と呼ばれる所に入っていくと、ちょうど『ふしぎな国のアリス』みたいに、時間や空間などの感覚が今までの世界とはちょっと違った状況になってきます。・・[1]」というのです。始めに述べた「聖地の定義」のうちの「場所が特別」という要素も重要だというのです。
このように、「聖地を移動」させるのは、容易なことではないようです。聖地を移動させたいのなら、「移動してきた聖地が自分のそばにあるような感じ」を実現するというのが目標になりそうです。そのためには、聖地を特別な場所にしている「場」の情報の獲得と、人間が感じたり理解したりできる形式での出力方法の開発が課題といえるでしょう。
二つの聖地の定義は、「自然な場所の情報」と「人が付加し記号化された場所の情報」という二つの要素が、「場所」にあることを示しています。そしてそれは、「場所」に関する情報の一般解として拡張できると思うのです。
参考文献:
1:伊藤俊治/湊千尋監修、「移動する聖地」、NTT出版、1999,151頁
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